今回は今までの解説を踏まえた設例を見てみます。以下のようなoperating leaseのlesseeだったとします。 【設例】 ・5年の不動産リース。Operating leaseと判定された。 ・リース開始日(Commencement date)は1/1/20X1である。 ・賃料の支払いは、年払い。commencement dayに$5,000、その後は、翌年の家賃を前年末までに支払い、2年目は、$10,000、3年目は、$20,000、4年目は$30,000、5年目は$40,000となっている。 ・なお、この賃料にはCAM(common area maintenance)相当部門が含まれ、家賃とCAMのstandalone priceの比率は、9:1である。 ・さらにlesseeは、契約成立時に$1,000をbrokerに支払っている。 ・割引率に関してimplicit rateはreadily availableではない。 【会計方針】 ・Lease Paymentの割引率は、incremental borrowing rateではなく、risk free rateを使うこととし、commencement dateのそれは、4%であった。 ・Lease componentとnonleaded componentに関しては、区別をしない簡便法(practical expedient )(第六回参照)を使わず、別の項目として会計処理する。 ---------- 上記の設例に沿って各年度のリース関係勘定科目の金額を表にしてみると以下のようになります。 (表一)Lease componentとnonlease componentの分離 まず、lease componentとnonlease componentを分離します。設例では、standalone priceの比率は9:1なので、支払いをlease部分90%、nonlease (CAM)分10%に分離します。この場合、IDC(initial direct cost)の$1,000も分離します。なお、practical expedient を使う場合は、分離は不要ですが、その分lease liability とROU assetは大きくなります。 分離した後、lease liability とROU assetを計算していきます。 Lease liabilityの計算 col. bは、col. aの金額を1/1/20X1からの期間で4%に割り引いたPV(現在価値)です。前回lease liabilityについて以下のような説明をしていました。 Lease liabilityはcommencement dateにおいて未だ支払われていないLease Paymentをdiscount rateで割引いた現在価値である(the lease liability at the present value of the lease payments not yet paid, discounted using the discount rate for the lease at lease commencement. )。 設例の場合、Year1からYear4の期末に払う2年目から5年目の賃料を4%で割り引いた金額は$80,000となり、この$80,000が1/1/200X1時点でのlease liability(col. d)になります。 ROU assetの計算 一方、ROU assetは以下のように説明されていました。 リース開始日(commencement date)において: (未だ支払われいないLease Paymentの現在価値=lease liability)+(既に支払われたLease Payment)+(initial…
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今回はinitial direct costをlesseeの立場から見ていきます(なお、lessorの立場からもinitial direct costは発生しますが、今回は割愛します)。Initial direct costに関してASC 842は以下のように定義しています。Incremental costs of a lease that would not have been incurred if the lease had not been obtained (842-20-20). 訳すと「リース契約に至らなかったとしたら発生しなかったような追加的な費用」でしょうか。今ひとつわかりにくいのですが、ASC 842 は以下のような例を挙げています。 該当するものは(ASC 842-10-30-9): a.(不動産ブローカー等への)コミッション b. 既存のテナントに対する立ち退き料の支払い 一方、該当しないものは(ASC 842-10-30-10を簡略化) a.一般的な間接費 b. Lessorが行う宣伝、lesseeの募集にかかる費用等(これはlessorからの視点です。) c. リース契約に至る前にの活動(例:税務や法務のアドバイスを得る、リースの条件の交渉をする等)に関する費用 上記の例を見るとlesseeから見たinitial direct costは、「リース契約が締結されて初めて発生するlessor以外の外部の者に対する費用」と考えるとわかりやすいのではないかと個人的には考えています。 Initial direct cost とROU asset、lease liability ASC 842は、lesseeはinitial direct costをROU asset算出にあたって加算するよう規定しています(ASC 842-20-30-5)。今まで、第二回、第三回でROU asset=discountされたlease liabilityとして説明してきましたが、実はASC 842では、ROU assetは以下の3つから構成されるとしています。 a. Discountされたlease liability b. リースの開始前又はリース開始時までにlessorに支払ったLease Paymentから受け取ったlease incentiveを控除したもの c. Initial direct cost 上記のb.を見ると何か見覚えのあるフレーズです。これは、第五回で説明したlease paymentの内容とかぶっています。単純に考えると第五回で説明したLease Paymentをdiscountしたものがlease liabilityになりそうです。それにまた上記b. で支払ったLease Payment(マイナスlease incentive)をROU assetの計算に加算しては二重計上になるように見えます。 この点、実はlease liabilityについてASC 842-20-30-1は以下のような規定を置いています。 Lesseeはリース開始日(commencement date)にlease liabilityとROU assetを測定しなければならないとして、lease liabilityは未だ支払われていないLease Paymentをdiscount rateで割引いた現在価値である(the lease liability at the present value of the lease payments not yet…
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今回は、lesseeの視点からリースの契約に含まれる非リース要素(nonlease component)を見ていきます。いままで、リース契約は、物の貸借をするだけの契約という前提で議論をしてきました。実はリース契約に物を貸借する権利義務を定めた要素以外に、貸借物に関する保守管理、不動産の共用部分の管理維持、税金の負担などの事項がlessorとlesseeの間で取り決められていることが多くあります。新リース会計では、これらの事項をlease component(リース要素)、nonlease component (非リース要素)、 noncomponent(非要素)と区別して扱っています。Lease componentだけを含む「リース契約」と混乱を避けるため複数のcomponent 、noncomponentを含む契約をリースの取決(arrangement)として説明していきます。 リースの取決の要素 Lease component (リース要素) リースに関する取決のうちリース対象資産を利用する権利を付与する部分です。 Nonlease component (非リース要素) リースに関する取決のうち、リース資産を利用する権利とは直接関係ない、何らかの財やサービスを移転する部分です。これは、上述した不動産賃借の場合のCAM(Common Area Maintenance)費用負担の取決などです。 Noncomponent(非要素) リースに関する取決のうち何らの財もサービスも移転しない部分です。ASC 842は以下のようなものがnoncomponentにあたるとしています。 契約を設定したり、リースを開始したりするための管理的費用でlesseeに対して財もサービスも移転しないもの(Administrative tasks to set up a contract or initiate the lease that do not transfer a good or service to the lessee)これは、主にlessorから見たコストです。 Lessorのコストの償還又は支払い(Reimbursement or payment of the lessor’s costs.)これは、lesseeから見たコストで、lessorが資産の所有者として負う費用負担を、lesseeがlessorに償還したり、第三者(税務当局等)に直接支払うような負担をいいます。このような負担は、lesseeには何らの財もサービスも移転しないものです。 複数のlease componentの分離 実際にリースに関する取決を分析するときには、上記のlease component(リース要素)、nonlease component (非リース要素)、 noncomponent(非要素)を判断することになりますが、lease component関しては、以下の基準で複数のlease component(リース要素)がないかも判断する必要があります(ASC 842-10-15-28)。 Lesseeがそのリース資産から単独で、又はリース資産とlesseeが容易に調達可能な手段(resources)と合わせてリース資産の利用から利益を得ることができる。 リース資産の利用がが、その他のリース資産の利用と高度に相互依存的でなくまた相互に統合されていない。 具体的な上記のような検討が必要な例としては、建物と家具を一緒に借りた場合、工事機器として、クレーンとトラックを一度に借りたような場合が想定されます。 なお、上記の規定にかかわらず(上記の条件(1)、(2)を満たしていなくても)、土地がリース対象資産となっている場合は、土地の部分はそれが重要でない場合(insignificantな場合)を除き、建物等のリースとは別のlease component(リース要素)ととして扱うようにとあるので(ASC 842-10-15-28)、注意が必要です。これは、土地が非償却資産であり別の扱いが必要であるためと説明されています。 各componentに対する取引価格の配分 ASC842では、lesseeは各lease component(リース要素)とnonlease component (非リース要素)に取引対価(consideration)を按分するように規定しています(ASC 842-10-15-33)。なお、この取引対価には、変動支払額は入らないことに留意が必要です(ASC 842-10-15-35)。 具体的には、ここのlease component(リース要素)とnonlease component (非リース要素)のstandalone price(単独取引価格)で取引対価(consideration)を按分するとしています。このstandalone priceはobservable(観測可能)なものを利用し、observableなものが容易に入手可能でない場合は、standalone priceをestimateするとしています。なお、ある要素のstandalone priceの変動性が高かったり、不確定であるときは、residual estimation approachが許容されるとあります。これは、他の要素のstandalone priceが観測できる、又は見積もることができる場合、残額を変動性が高い又は不確定な要素のstandalone priceとするapproachです。 なお、noncomponentに関する固定支払いは、各componentに按分され、noncomponentにはconsiderationは配賦されないこととなります。 以下が簡単な例です。 【例1】リースの取決には以下のようにリース期間全体の支払いが固定額で取り決められているとします。 Building lease $1,600,000 Property tax $150,000 CAM $150,000 Standalone PriceはBuilding lease $1,800,000…
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今回は、lesseeの視点からリースに関して支払われる金額の扱いを見ていきます。今までの説明では、月々の使用料支払額だけを対象に資産化等を議論してきましたが、リースに関する支払いは、他にもいろいろ発生します。ASC 842においてそれらがどのような扱いになっているか判断して、Lease Paymentの金額を確定していきます。 Lease Payment このLease PaymentはASC 842では、重要な概念でLease Paymentの現在価値でリースの区分(finance lease or operating lease)を判断したり(第一回参照)、lease liabilitiesやROU assetとして資産化される金額の算出基礎になります。Lease Paymentの構成については続いて解説しますが、一言で言うとリース資産の利用権のためにlesseeがlessorに対して行う支払い(Lease payments are the payments made by the lessee to the lessor for the right to use the underlying asset)といえます。 なお、前基準のASC 840では、リースの区分を判断する基準の一つとして、minimum lease paymentsがリース資産のfair valueの90%以上というものがありました(ASC 840-10-25-1 (d))。新基準でも第一回で同じような判断基準があると触れましたが(ASC 842-20-25-2 (d))、この条文ではminimum lease paymentsという言葉は使われておらず、単に上述のLease Paymentになっている点、用語に注意が必要です。 Lease Paymentの構成要素として新リース基準ASC 842-10-30-5は以下のようなものを挙げています。 1.Fixed payment (842-10-30-5 (a)) これは、単純化すると契約で確定している使用料になります。月$xxxの賃料といったものです。 2.Lease incentive (842-10-30-5 (a)) 不動産の賃貸等でよく見かけるlandlordがtenant improvementの費用を負担するような例です。これは謂わばネガティブな支払いで、lessorからもらった、若しくはlessorに負担してもらった金額は、Lease Paymentから減額します。 3. Variable lease payment (842-10-30-5 (b)) 1.の確定した金額(fixed payment)以外に、変動する支払額がリース契約で決められることがあります。ASC 842では、時の経過以外の要因でリース開始時以降に変動する(changes in facts or circumstances occurring after the commencement date, other than the passage of time)支払額と定義しています。扱いは以下の2つに分かれます。 ・指数や相場(例:Consumer Price Index やmarket interest rate)に基づくものは、リース開始時の当該指標や相場をもちいて算出した金額をLease Paymentに含めます。例えば、家賃が毎年物価指数に基づいて変動するような場合です。 ・上記以外の変動支払額は、Lease Paymentには含めません。 よって、よく小売業の店舗賃借などである固定家賃+売上のxx%といった形での変動支払額については、変動部分は、Lease Paymentには含めません。 4.Purchase option (842-10-30-5…
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今回は、リース債務を計算する際の割引率について解説します。リース債務は、リース全期間の支払総額等(Lease Payment-次回解説予定)を現在価値(Present Value – PV)に引き直して求められますが、そのために必要になるのが割引率です。 割引率の種類 新しいリース基準ASC 842には以下の2つの割引率が提示されています。 Implicit rate (黙示的な割引率) Incremental borrowing rate (追加借入の金利) 簡略化してありますが、それぞれ以下のように説明できます。 Implicit rate: PV of lease payments + PV of residual assets = Fair value of assets +Deferred initial direct costs の等式を満たすような左辺の現在価値(PV)を導く割引率。 一見わかりにくいですが、単純化すると、リース料と資産の残存価値を現在価値(PV)に割り引いた金額は、現在の資産のfair valueとleaseを実施するために直接かかった費用(initial direct cost)を回収できるようにlessorは意思決定しているはずであると考えているといえます。そして、そのようになる割引率をimplicit rateと呼んでいることになります。 Incremental borrowing rate: これはlesseeの視点から見た割引率で以下のように定義されています。 the rate of interest a lessee would have to pay to borrow an amount equal to the total lease payments on a collateralized basis over a similar term in a similar economic environment. つまり、lesseeがリース支払額総額を借りなければならないとしたときの追加借入率になります。なお、リース期間や経済状況が同じような担保付きローンを想定するとあります。 割引率の適用順序 このimplicit rateとincremental borrowing rateですが、ASC 842では適用順序を決めています。原則はimplicit rateです。ただ、これは上記の説明でわかるようにlessorからの視点で算出されるレートです。Lessee、特にoperating leaseのlesseeにはそのような情報は入手困難と思われます。 そこで、ASC 842は、implicit rate がreadily determinableでないときは、incremental borrowing rateを使うと規定しています。 Risk-Free discount rateの使用(簡便法) しかし、incremental borrowing rateを実際にlesseeが算出しようとすると、かなり複雑な計算を強いられることになります。つまりlesseeの…
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今回は、2022年に新リース基準を適用したときの経過措置を見ていきたいと思います。会計基準の変更なので、retrospectiveな遡及適用が原則です。但し、遡及適用は煩雑なので以下のような2つのtransition methodが設けられています。 ASC 842-10-65-1 Retrospectively to each prior reporting period presented in the financial statements with the cumulative effect of initially applying the pending content that links to this paragraph recognized at the beginning of the earliest comparative period presented. Under this transition method, the application date shall be the later of the beginning of the earliest period presented in the financial statements and the commencement date of the lease. Retrospectively at the beginning of the period of adoption through a cumulative-effect adjustment, Under this transition method, the application date shall be the beginning of the reporting period in which…
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新リース基準(ASC 842)での大きな変更点は、lessee側のオペレーティング・リースの扱いです。旧基準(ASC 840)ではコミットメントとしてリース債務がfootnoteで開示されていただけですが、Right of Use Asset(ROU asset)という概念を新設してオンバランス化されることになりました。ROU assetは、an asset that represents a lessee’s right to use an underlying asset for the lease termと定義されており、ファイナンス・リース、オペレーティング・リース双方で使われます。 理論的な面は、後日触れるとして、実際にオペレーティング・リースをオンバランス化するというのは、どういうことか設例を使って見ていきます。 【設例1】 5年のリースで、各年度の終わりにリース料を、5,000, 10,000, 15,000, 20,000, 25,000と漸増して払っていく。割引率は9%で、この率を基にしたリース総額の現在価値は、55,000である。オペレーティング・リースと判定された。 これをASC 842に沿って表にすると以下になります。 合計 75,000 20,000 55,000 55,000 75,000 年 リース料 利息 相当額 リース 債務減少 リース 債務 ROU asset 償却 相当額 ROU asset リース費用 B/S B/S P/L (a) (b) (c) (d) (e) (f) (g) =(a)-(b) =(g)-(b) 当初残高 55,000 55,000 1 5,000 4,951 49 54,951 10,049 44,951 15,000 2 10,000 4,947 5,053 49,898 10,053…
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新リース基準(ASC 842)の適用時期が近付いてきました。暦年の非公開企業は、2022年末から適用なのですが、期末に財務諸表を作る際に期首に適用を開始した形にする必要があります。今後しばらくリースの論点を取り上げていきます。 概要 まず、リースについては、新収益認識基準でおなじみとなったcontrol概念を使って、 contract that conveys the right to control the use of an identified assetと説明されています。因みに今まではAn agreement conveying the right to use property, plant, or equipmentとされていました。 新リース基準では以下のような区分がされています。 Lessor側 Lessee側 Sales -type - Finance Direct financing - Operating Operating - Operating 旧基準では以下のようになっていました。 Lessor側 Lessee側 Sales -type (Capital) - Capital Direct financing (Capital) - Capital Operating - Operating 今まであったcapital leaseがなくなっていますが、大雑把な理解としてはcapital leaseがsales-type leaseに移行したと捉えて問題ありません。 Sales-type leaseの条件 根底には、新収益認識基準の次のようなcontrol概念ががあります。 Control of an asset refers to the ability to direct the use of, and obtain substantially all of the remaining benefits from the asset リースにおいて資産が売却されたと見做して会計処理するためには、上述したconveys the right to control the use のみならず、substantially all of…
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これは一見簡単そうだが、日米の違いが大きく結構問題になる。 日本の扱い 日本では、企業会計原則が以下のように定めている。 第2-6 特別損益 「特別損益は、前期損益修正益、固定資産売却益等の特別利益と前期損益修正損、固定資産売却損、災害による損失等の特別損失とに区分して表示する。」 なお、注解12では、特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは、経常損益計算に含めることができると定めている。 アメリカの扱い 一方、USGAAPだが、これはASC (Accounting Standards Codification)360-10-45の固定資産の条項で示されている。 360 Property, Plant, and Equipment 360-10-45 Other Presentation Matters>> Presentation of Disposal Gains or Losses in Continuing Operations 45-5 A gain or loss recognized on the sale of a long-lived asset (disposal group) that is not a discontinued operation shall be included in income from continuing operations before income taxes in the income statement of a business entity. If a subtotal such as income from operations is presented, it shall include the amounts of those gains or losses. 意味するところは、営業利益項目として計上しなさいということである。なお、 If a subtotal such as income from operations is presentedとあるのは、USGAAPでは、営業利益のsubtotalを出さないsingle…
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FASBは、コロナウィルス・パンデミックに対応して2020年6月3日にASU No.2020-05を発行し、新収益認識基準(ASC 606)と新リース基準(ASC 842)適用の一年延期を決めました。適用になるのは、非公開企業、非営利企業になります。 新収益認識基準に関しては、2019年12月15日後に始まる事業年度まで適用が延期できます。なお、2020年6月3日現在において適用していない会社が対象になります。このため多くの12月決算の会社は2019年12月期に既に適応済みということになり影響を受けません。 新リース基準に関しては、2020年12月15日後に始まる事業年度から、2021年12月15日後に始まる事業年度に延期されました。 両基準とも任意の早期適用は依然として認められています。
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