新リース基準 - 第二回 オペレーティング・リースとROU Asset

By July 25th, 2021 November 19th, 2022 監査

新リース基準(ASC 842)での大きな変更点は、lessee側のオペレーティング・リースの扱いです。旧基準(ASC 840)ではコミットメントとしてリース債務がfootnoteで開示されていただけですが、Right of Use Asset(ROU asset)という概念を新設してオンバランス化されることになりました。ROU assetは、an asset that represents a lessee’s right to use an underlying asset for the lease termと定義されており、ファイナンス・リース、オペレーティング・リース双方で使われます。

理論的な面は、後日触れるとして、実際にオペレーティング・リースをオンバランス化するというのは、どういうことか設例を使って見ていきます。

【設例1】

5年のリースで、各年度の終わりにリース料を、5,000, 10,000, 15,000, 20,000, 25,000と漸増して払っていく。割引率は9%で、この率を基にしたリース総額の現在価値は、55,000である。オペレーティング・リースと判定された。

これをASC 842に沿って表にすると以下になります。

合計 75,000 20,000 55,000   55,000   75,000
リース料 利息
相当額
リース
債務減少
リース
債務
ROU asset 償却
相当額
ROU asset リース費用
        B/S   B/S P/L
  (a) (b) (c) (d) (e) (f) (g)
      =(a)-(b)   =(g)-(b)    
当初残高     55,000   55,000  
1 5,000 4,951 49 54,951 10,049 44,951 15,000
2 10,000 4,947 5,053 49,898 10,053 34,898 15,000
3 15,000 4,492 10,508 39,390 10,508 24,390 15,000
4 20,000 3,546 16,454 22,936 11,454 12,936 15,000
5 25,000 2,064 22,936 12,936 15,000

リース費用の計算は実はASC 840の時と変わりありません。総リース料をリース期間に渡りストレート・ラインで認識します。設例では15,000/年です(g)。リース債務の当初金額は、55,000 (d)、キャピタル・リースの時と同じように利息(b)を計算して、リース債務を減少(c)させますが、損益計算書上は利息費用としては表示しません。

ROU assetの当初金額は、リース債務と同じ55,000 (f)、このROU assetの償却額(e)は、リース費用(g)から利息相当額(b)を引いて、plugする形で出します。利息と同じく損益計算書上は償却費用としては表示しません。

つまり、各期のリース費用(15,000)の構成要素が、利息相当額とROU asset償却相当額となるだけで、利息費用、償却費用は損益計算書では個別に表示しません。また、P/L に与える影響は、ASC840とASC842では変わらないことになります。

【設例2】

設例1と同じリースだが、ファイナンス・リースと判定された。ROU assetの耐用年数は5年。定額法で償却する。

合計 75,000 20,000 55,000   55,000   75,000
リース料 利息費用 リース
債務減少
リース
債務
ROU asset 償却費 ROU asset リース関連費合計
    P/L   B/S P/L B/S  
  (a) (b) (c) (d) (e) (f) (g)
      =(a)-(b)       =(b)+(e)
当初残高     55,000   55,000  
1 5,000 4,951 49 54,951 11,000 44,000 15,951
2 10,000 4,947 5,053 49,898 11,000 33,000 15,947
3 15,000 4,492 10,508 39,390 11,000 22,000 15,492
4 20,000 3,546 16,454 22,936 11,000 11,000 14,546
5 25,000 2,064 22,936 11,000 13,064

これはASC 840からASC 842になっても変更はありません。利息費用(b)は、損益計算書上も利息費用として表示され、ROU assetの償却費(e)は、amortizationとして表示されます。

利息費用(b)とROU assetの償却費(e)が直接連動しているわけではないので、利息費用(b) ROU assetの償却費(e)を合計したリース関連費用(g)は、設例1のリース費用(g)と比べると各年度では当然差が出てきます。但し、合計額は一致します。

【設例3】

設例1をASC 840に沿って処理した場合。

合計 75,000 75,000  
リース料 リース費用 Deferred rent(単年) Deferred rent(累計)
    P/L   B/S
  (a) (g) (h) (i)
      =(a)-(g)  
       
1 5,000 15,000 (10,000) (10,000)
2 10,000 15,000 (5,000) (15,000)
3 15,000 15,000 (15,000)
4 20,000 15,000 5,000 (10,000)
5 25,000 15,000 10,000

旧基準ですので、もちろんリース債務もROU assetも貸借対照表上認識されませんが、リース総額75,000を平準化して5年間で認識するためDeferred rent (i)が貸借対照表に計上されます。これは、各年度のリース費用と実際のリース料支払額の差額(h)の累計であり、リース終期には残高はゼロになります。

ASC 842でdeferred rentはなくなる?

ASC 840で認識されたdeferred rentは、ASC 842では認識されないのでしょうか?貸借対照表にdeferred rentとしては表示されないので、その意味では認識されません。一方、以下のようにリース債務とROU assetの差額の中に含まれており、その意味では認識されています。

合計 75,000 20,000 55,000   55,000   75,000  
リース料 利息
相当額
リース
債務減少
リース
債務
ROU asset 償却
相当額
ROU asset リース費用 Deferred rent(単年) Deferred rent(累計)
        B/S   B/S P/L    
  (a) (b) (c) (d) (e) (f) (g) (h) (i)
      =(a)-(b)   =(g)-(b)     =(c)-(e) =(f)-(e)
当初残高     55,000   55,000      
1 5,000 4,951 49 54,951 10,049 44,951 15,000 (10,000) (10,000)
2 10,000 4,947 5,053 49,898 10,053 34,898 15,000 (5,000) (15,000)
3 15,000 4,492 10,508 39,390 10,508 24,390 15,000 (15,000)
4 20,000 3,546 16,454 22,936 11,454 12,936 15,000 5,000 (10,000)
5 25,000 2,064 22,936 12,936 15,000 10,000

上記の表からわかるように、リース債務の減少額 (c)とROU asset (e)の差額が、各年度のdeferred rent の発生額(h)となっています。そして、リース債務(d)とROU asset (f)の残高のネット額が、deferred rent 累計 (i)になっています。設例3と比べてみてください。