Skip to main content
Category

税務の現場から

差別化への工夫(2)

By 税務の現場から
前回小欄にて、移転価格とは評価の作業で、各グループ企業がグループの競争力に如何に寄与しているかが重要な評価対象である旨書いた。その為、移転価格の取材においては、北米マーケットにおける当該グループのCompetitive advantageが何か、突っ込んだ質問をさせて頂くが、「特長が無いのが弊社の特徴なんですね」等と言われる場合もある。Competitive advantageとは競合との比較を通して、相対的に語られるものなので、必然的に競合に対する差別化の努力について話が及ぶ。左様な努力が、市場における競争力に常に直結するものではないが、グループ利益のメンバー間配賦の妥当性を分析する為にも必要な為、必ず聴取する。 顧客からお伺いした、差別化への努力のお話は、筆者自身にも大きく影響してきた。コンサルタントである自分が、顧客から学んだことは多い。 前回の社長に戻るが、非日系の顧客には日本の営業マンを当てていたという。肌理の細かい、日本式営業に一旦慣れてしまうと、米系顧客の多くは離れないという。 営業は総合力だ。マーケティングの様に理論主導の領域ではない。その人の人間力が試される。異文化、異言語という背景もあって適応力も試される。それでも競合を差し置いて、顧客から厚い支持を得てみせる。職人芸だと思った。職人気質は海を越えても、通用するのだ。 法は言葉のアートであり、税法も然りだ。日本で生まれ育ち、米国にて士業を生業にしている自分の様な者は、程度の差はあれど‘言葉のハンデ’に直面する。駆け出しのころ、IRSによる税務調査を翌日に控え、顧客オフィスにて打ち合わせをしていた時、「あなたは、明日、IRSにぼこぼこにされちゃうんじゃないの」と聞かれた。「このお客さんは、僕のコミュニケーション能力に不安を持っているな」と思った。無念な思いであったが、今思えば、そのクライアントとはいつも日本語でしか話したことが無いので、正直な思いだったはずだ。それ以降、クライアントには、自分の折衝ぶりを評価して貰う為、折衝の場に出席頂いている。かつては同胞の職人芸に舌を巻いたが、今度は自分が見せる番なのだ。 筆者の紹介 ― 河村好司(kawamura@reiwa-us.com)。Reiwa Accounting にて移転価格やクロスボーダー事業、取引に関する税務コンサルティングを行う。税務調査、不服申し立て立ち合いの経験も豊富。今後も、実務にて得た経験をベースに寄稿予定。
Read More

差別化への工夫

By 税務の現場から
小欄巻末の自己紹介でもうたっているように、筆者は税務コンサルティングを生業にしている。多くの会計事務所が、自分の立ち位置や、独自性を訴えようと、如何なるValue added servicesを提供できるのか、またそれがクライアントにとってどんな価値・意義があるのか、ホームページからメッセージを発信している。コンプライアンス案件と異なり、コンサルティングは、企業業績にtangibleな影響を与える為、提供する側にとっては、差別化の為の格好のマーケティング・ツールである。一方、顧客の視点からは、コンサルティングにかける費用は、投資に似た趣があるのではないか。有効なコンサルティングを長年受けている者とそうで無い者では、当然ながら、その恩恵に相当な差が生じるため、コンサルタントの選定には慎重を期したい。 筆者が提供するコンサルティングのうち、最も主たるものは移転価格だ。弊所の法人クライアントの多くが海外のグループ企業との関連者間取引を通じ、米国移転価格税制の対象となっているからだ。移転価格スタディは、Value chain分析である。人事担当者が職員のパフォーマンスを査定するように、移転価格スタディは、グループのメンバー企業の貢献度を評価し、受け取り対価がその貢献にふさわしいか吟味する。スタディの核となるのは、市場分析と機能分析。市場分析では、当該企業グループの北米市場における立ち位置や競争力を測る。更に、競合と比較した場合のグループの強み、弱みを分析し、現状及び将来についての課題を提示する。機能分析では、市場分析で明らかになった、グループの立ち位置、競争力の形成に各メンバー企業が如何に寄与したか分析する。米国子会社を対象としたスタディの場合で、子会社の貢献度がごく限られている場合には、「子会社が施すルーティーンな機能に見合った利益さえ出ていれば、米国移転価格税制上問題なし」の結論に至るべく、文章を整える。逆に米国子会社がグループの北米事業の主体である場合、「当該取引を通じ海外関連者に支払った適正対価を除くすべての事業所得は米国子会社に帰属する(=従って、米国子会社が赤字でも構わない)」也の結論に至る。 移転価格を通じて筆者が見てきたのは、北米市場における差別化の確立や競争力の向上の為に日に日に努力する日系企業の姿だった。中でも特に印象に残っているのは、駆け出しのころ取材させて頂いたクライアント先の社長が、満面の笑みを浮かべて、「うちは、作っている製品の質では、米国の競合に絶対勝てない。でも、うちの日本人営業マネジャーがいる限り、商売では、どの米国の競合にも絶対負けない」と、自慢げにおっしゃった事だ。日系企業のイメージと真逆で、半信半疑だった。後日その営業マネジャー(=東証一部上場企業からの駐在員)から直接お話を伺ったが、職人さながらのこだわりで、全米相手に商売されていた。こんな営業をされれば、競合もたまらないだろうと思った。‘ものづくり’と言うが、日本人の職人気質は営業畑にも引き継がれ、国際舞台で実力を発揮しているのだなと、実感した。 日々差別化に取り組んでいる人にとっては、他人が如何なる努力をしているかも気になると思う。以前、営業での出先で、「御所は、競合の会計事務所と比較して、何が優れていますか。サイズ的に同じくらいの規模の事務所が沢山ある中で、どうして御所と契約すべきなのでしょうか」と問われた。営業担当の同僚が困っていたので、「他の事務所さんは、クライアントの為、不服申し立て(=Administrative appeals)までしても払った税金を取り返そうとするかお尋ねください」と答えた。「ほ~ぅ」という反応で、気に入って貰えたことがわかった。 筆者の紹介 ― 河村好司(kawamura@reiwa-us.com)。Reiwa Accounting にて移転価格やクロスボーダー事業、取引に関する税務コンサルティングを行う。税務調査、不服申し立て立ち合いの経験も豊富。今後も、実務にて得た経験をベースに寄稿予定。
Read More

Stepped-up Basisと相続税条約

By 税務の現場から
前回小欄にて、筆者が、IRS指針の執筆担当官僚から直接聴取を行っている事に言及したところ、「そこまでやっているとは、思わなかった」、「どうして、そういった官僚とコンタクトが取れるのか」等のコメントを貰った。 コンタクトを取るのは簡単だ。IRSが発行する財務省規則草案のPreamble、最終規則のTD、またその他指針の多くには、執筆者、担当者の名前、コンタクト番号が記載されているので、規則、指針の内容に不明な点があれば、その者に電話する。ただ、電話しても、電話を取ってくれる事は殆ど皆無だ(私の経験では、1度も取って貰った事は無い)。ボイスメールに、質問の内容を要領よく伝え、Call backを待つ。大体2,3日中にCall backをくれる。彼らはIRS内のOffice of Chief Counsel、Office of Associate Chief Counselに所属しており、弁護士である者とそうで無い者がいる。弁護士ライセンスが無くても、この国の財務省規則、指針を執筆している人も居るという事だ。 規則や指針の実際の執筆者に質問するのだから、何でも答えられるだろうと思いがちだが、そうではない。こちらも、重箱の隅をつつくような質問ばかりするからだ。これまで、即答頂けた事は殆どない。「同僚と確認したうえで、回答するので、数日~数週間待ってくれ」也の対応が多い。部署内で確認した回答を頂いても、またそれに対して追加質問をする場合もあるので、ケースによっては何度もやり取りを交わす。そのうち、直通電話を教えてくれる人も居る。 日本で勤務していた時代に、審理事務担当に連絡しアドバイスを仰いでいたが、審理に相談した経験のある読者ならば、国は違えど、税務の実務家と官僚とで如何なる対話が交わされるか、容易に想像がつくと思う。我々会計事務所は情報サービスであるが為、常に信ぴょう性の高い”ネタ”を追っているという点では、メディアに似ている。その為、出版社のエディター、弁護士、コンサルタントらとのつながりが重要なのだが、規則や指針を執筆している官僚から得る知見は、何ものにも代えがたいものだと思う。 官僚との接触を通じ、思いがけない経験をした事がある。Stepped-up basis(内国歳入法1014(f)条)に関する財務省規則草案が発表された直後、「日本の居住者が米国資産を遺して亡くなった場合で、相続税条約上の恩典を使えば米国エステートタックスが生じないはずなのに、諸々の理由にてエステートタックス申告書&条約開示(=Forms 706NA & 8833)が未提出だった場合、当該米国資産についてはStepped-up basisが適用できるのか否か」尋ねたところ、「そうしたシナリオについて、財務省規則草案は想定していないので、答えは無い。最終規則を作る過程で参考にするので、連邦政府宛てにコメントを提出してくれ」と頼まれた。 依頼を受けRegulations.govに以下の趣旨のコメントを提出した。 A comparative reading of Prop. Regs. 1.1014-10(b) and 1.1014-10(c)(3)(ii) points that the consistent basis requirement does not apply to any property that is includible in the decedent's gross estate from which no tax arises regardless whether the filing requirement under IRC Sec 6018 with respect to the decedent's estate has been met. In the case of a noncitizen nonresident decedent's estate, the estate is subject to the IRC Sec 6018 filing requirement if such part of the gross estate as…
Read More

駐車場経費の損金不算入及びERC

By 税務の現場から
TCJAの下、内国歳入法274条が改正された為、企業が職員の為に負担する交通費、駐車場代につき、損金算入不可能となるケースが増えた。テナントビルの場合で、テナントが駐車場代込みでオフィス賃料を支払っている場合でも、同賃料に含まれる駐車場代相当分につき否認されるケースもある。否認されるケースの多くは、テナントビル駐車スペースの半数以上を自社職員が利用している場合。2020年12月に発表された財務省規則の下では、同一テナントビルの他のテナント職員や客らの駐車が過半数を占める状況においては、駐車場代相当分の損金算入が依然として可能な為、割を食うのは、大口のテナントだ(米国財務省規則1.274-13(b)(3)(ii))。逆に、小口テナントにとっては朗報なのだが、財務省規則の文言が、実務家を悩ませている。 Multi-tenant building. – If a taxpayer owns or leases spaces in a multi-tenant building, the term general public includes employees………clients, or customers of unrelated tenants in the building. 同一ビルのテナント職員や客は、‘一般大衆’と 見なされ、これら‘一般大衆’の駐車が過半数占めるか否かで、損金算入、不算入が決まる。が、この文言では、同一敷地内の複数のテナントビルが駐車場を共用している場合に、ルールが如何に適用されるかわからない。敷地内の他のビルのテナント職員や客までも‘一般大衆’と見なすのか。 LAも一歩郊外に出れば、広い敷地に低層のテナントビルが散在する箇所も多いため、本件多くのクライアントに少なからず影響するが、TD(=最終規則発表時に発行される解説)にも手掛かりはなかった。 結局、財務省規則を実際に執筆したIRS部署(Office of Associate Chief Counsel)に照会したところ、(部署としてではなく)一個人の考えと断った上で、「複数のテナントビルが同一敷地内の駐車場を共用する場合、全てのビルのテナント職員や客を‘一般大衆’と見なす」也の見解を得た。 実務において、財務省規則の執筆担当部署に直接コンタクト取る事は、滅多にないが、最近もう1件照会した事があった。それは、Employee retention credit(ERC)のルール運用においてFull-time employeesの数を勘定する際に、海外での勤労時間数をカウントするか否かという問題であった(内国歳入法3134、4980H)。日系企業にとっては、最重要の事案だが、この点については、「法に鑑み、誠実に対応してくれ」也の回答を得た。筆者も含め、当問題につき思案してきた実務家には、十分な回答であった。 筆者の紹介 ― 河村好司(kawamura@reiwa-us.com)。Reiwa Accounting にて移転価格やクロスボーダー事業、取引に関する税務コンサルティングを行う。税務調査、不服申し立て立ち合いの経験も豊富。今後も、実務にて得た経験をベースに寄稿予定。
Read More