差別化への工夫(2)

By December 29th, 2021 税務の現場から

前回小欄にて、移転価格とは評価の作業で、各グループ企業がグループの競争力に如何に寄与しているかが重要な評価対象である旨書いた。その為、移転価格の取材においては、北米マーケットにおける当該グループのCompetitive advantageが何か、突っ込んだ質問をさせて頂くが、「特長が無いのが弊社の特徴なんですね」等と言われる場合もある。Competitive advantageとは競合との比較を通して、相対的に語られるものなので、必然的に競合に対する差別化の努力について話が及ぶ。左様な努力が、市場における競争力に常に直結するものではないが、グループ利益のメンバー間配賦の妥当性を分析する為にも必要な為、必ず聴取する。

顧客からお伺いした、差別化への努力のお話は、筆者自身にも大きく影響してきた。コンサルタントである自分が、顧客から学んだことは多い。

前回の社長に戻るが、非日系の顧客には日本の営業マンを当てていたという。肌理の細かい、日本式営業に一旦慣れてしまうと、米系顧客の多くは離れないという。

営業は総合力だ。マーケティングの様に理論主導の領域ではない。その人の人間力が試される。異文化、異言語という背景もあって適応力も試される。それでも競合を差し置いて、顧客から厚い支持を得てみせる。職人芸だと思った。職人気質は海を越えても、通用するのだ。

法は言葉のアートであり、税法も然りだ。日本で生まれ育ち、米国にて士業を生業にしている自分の様な者は、程度の差はあれど‘言葉のハンデ’に直面する。駆け出しのころ、IRSによる税務調査を翌日に控え、顧客オフィスにて打ち合わせをしていた時、「あなたは、明日、IRSにぼこぼこにされちゃうんじゃないの」と聞かれた。「このお客さんは、僕のコミュニケーション能力に不安を持っているな」と思った。無念な思いであったが、今思えば、そのクライアントとはいつも日本語でしか話したことが無いので、正直な思いだったはずだ。それ以降、クライアントには、自分の折衝ぶりを評価して貰う為、折衝の場に出席頂いている。かつては同胞の職人芸に舌を巻いたが、今度は自分が見せる番なのだ。

筆者の紹介 ― 河村好司(kawamura@reiwa-us.com)。Reiwa Accounting にて移転価格やクロスボーダー事業、取引に関する税務コンサルティングを行う。税務調査、不服申し立て立ち合いの経験も豊富。今後も、実務にて得た経験をベースに寄稿予定。